【感想】Lousism『eggs and the world』「dismembered」

日谷秋三(dani)さんによる個人文芸サークル「Lousism」の短編集です。
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非常に純文学的*1な作品を書かれるサークルで、その読み応えにいつも期待しております。それだけに本を読んだ感想を書くにも緊張してしまい、読み終えてから10日以上寝かしてしまっている有り様でもあります。

作品の話に入る前に、もうひとつクッションとして私の話を差し込む事をお許し頂きたい。昨年の文学フリマ東京で会場を歩いていた際、たまたま目に入ったサークルさんの、何とも静かで緊張感ある佇まいが強烈に印象的だったので、つい声を掛けて新刊を下見させてもらったのが「Lousism」さんとの出会いでした。その時は文庫本『Dummy』を出していて、物語の筋が見えない複雑さに反して言葉がすっと頭に入ってくる感覚が心地よかったので、期待を込めて1冊買っていったのでした。
まぁ、それ以来のファンなのですが、とにかく文学フリマといえばWebカタログをチェックし尽くして参加するものですから、当日までノーチェックだったサークルさんに会場の佇まいだけで感じるものがあり新たに出会うという、いわば心にヒットするサークルを完全アドリブで発掘する体験が本当に久しぶりで、未だに強く印象的なのです。

さて本作は、既刊から2作品、新作1作品、コピー誌から2作品を収録しています。
順に「dismembered」「revealed」、「frightened」、「Waterlily」「Cicadas」です。

「dismembered」
東武線の走る退屈な街で、女子高生がバラバラ死体さんと会ったり、同じ学校の生徒と一緒にすれ違ったりする話です。このあらすじ自体にネタ晴らしの要素はなくて、何せ物語の一番最初のパラグラフが「バラバラ死体さんは」から始まっているので安心して読んで欲しいと思います。
いきなり内輪の感想になります。Lousismさんの小説には翡翠ちゃんやCicadaヘッセなど、印象の強い女の子が誰かしら出てくるのですが、極めて穏やかなモノローグに反して那維ちゃんは最強レベルなんじゃないかと思っております。印象的なのは弐華の方っぽいのだけど。背中を撫でてやりながら、まともな事を考えようとし続けている方が強すぎてびびります。すみません、どうぞ読んでから感想を分かち合おうじゃないですか……。

ちゃんと書評に戻ります。
この物語は(或いは、この物語も)、退屈な街の女の子の目を通して、色んな意味の強さが計られていくような話です。弐華は絵を描いたり比喩的な表現を使ったりして、日常を表す芸術タイプの子。那維は自分の事をどう思っているのかわからないけど、とにかく現実的に人と繋がりを上手く持たないままやれてしまう子。

「読むのにぴったりの場所がないの。ここだと眩しいし、家だと眠くなっちゃうし、学校だと五月蝿いし。きっとまともに読みたいなら、イタリア行かなきゃ駄目だ。イタリアの夜の屋根裏部屋でももらえばきっと直ぐに読み終わると思う。まぁ別に読み終わるために読んでるわけでもないし。」



それについて昨年末に自分が書いた感想です。

その後、文フリの二次会でdaniさんと直接話す機会があり、特に「dismembered」について話を伺いました。
私が思うに、那維がどんな子なのか作者である日谷さんすら知り尽くしてないし、当然、物語中の誰もがよくわからないまま日常をやれてしまっていたのだと感じた事を伝えたところ、日谷さんから「きっと彼女は自分自身でも自分のことを理解なんてしてないのですよ」という意味の事を言われて、非常に納得がいったのを覚えています。

そう、きっと理解なんて出来ないだろう。ここでは(『美しい夏』を)読めないし、イタリアでなら読み終えると思うのだけど、読み終えるために読んでいるのでもない。他人の物語は究極的には自分自身では無いけれど、取り込み続ける事で、自分とは何がどう違うか(読み間違えも含めて)否定神学的に残されていくものがきっとあると思っています。

このテーマは続く「revealed」以降にも繋がっていて、いつかそれについても書きたいと思いつつ、今日は力尽きました。またいつか、ごきげんよう
冒頭のpixiv fanboxでは前作『Dummy』が全編無料公開されています。文章の雰囲気を試しに、ぜひ一度読んでみて下さい。

lousism|pixivFANBOX

daniさんのTwitterアカウントです。
lousism@文フリ大阪B-5 (@lousism) | Twitter

*1:おおっと「的」という言葉を置いて、純文学という論壇システムそのものと同人活動の対比を意識しながら、結局、代置する言葉が見当たらずに逃げ腰で使うやつだ。これは文学フリマ自体の出自にも、daniさんの問題意識にも連なるキーワードなので、逃げを打ちつつも脚注しておきます