そいつは大工してて歳は30過ぎ。自分と同じく、たぶん非モテで、独身で、真性童貞。
そんなことはどうでもいいけど、ある日突然「俺、そろそろ俺がやらなきゃならないことを始めなくちゃいけないんだよ」とかで、仕事を辞めると言い出した。ちょっと待て。冷静に考えレ。オーケー、少し立ち止まって考えよう。
彼は幼い頃から優秀で、というか天才に近い、まさに神童タイプで。彼のお母さんに聞いた話だけど、まだ小さな頃に法律の本を読んで大人に質問をしたとかで大層驚いた覚えがあるそうだ。そんな感じで色んな期待もされてたし、本人も賢いから、多分色んな道も考えたと思うんだけど…彼には弟たちも沢山いて、それで早く稼がなくっちゃって、お父さんの仕事を手伝い始めたみたい。それが大工ってわけ。
ただ、10年以上も続ければ、そりゃキャリアも出来るし、仲間からも信頼とかだってあるだろうさ。それをいきなり「やらなきゃならない事」の為に辞めるとか！
だいたい、こいつは良い奴なんだけど、昔からちょっと変わり者なところがあって…まぁ、正しいことは言うんだけど、正しすぎるんだな。なかなか難しい事を簡単に言ってのけたりする。で、正しすぎる事ばかり言うと思えば、約束破りをした奴に怒って石を投げようとしたところにやってきて「お前らだって同じ事するだろ」とか、かばっちゃう。まぁ、その通りだったりするから、何にも言えなかったけど。てか、お前は昔の偉人かって。
そんな彼のエピソードはいいとして。
とりあえず、こんな良い奴って事だけが取り柄の、ヒゲはやした独身大工の転職騒動を、もうどうしてくれようか……
そんな気持ちで、神にも祈る気分だったけど。
『実はそいつがイエス・キリストで、気がついたら救われてたのは俺の方だった』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…
催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
（完）
