中島敦「悟浄歎異」より

俺が比較的彼を怒らせないのは、今まで彼と一定の距離を保っていて彼の前に余りボロを出さないようにしていたからだ。こんな事ではいつまで経っても学べる訳が無い。もっと悟空に近附き、如何に彼の荒さが神経にこたえようとも、どしどし叱られ殴られ罵られ、此方からも罵り返して、身を以てあの猿から凡てを学び取らねばならぬ。遠方から眺めて感嘆しているだけでは何にもならない。